碧巖録 前

佛果圜悟禪師碧巖
師、州夾山靈泉禪院に住して、雪竇顯和尚の頌古を評唱する語要

第一則 武帝、達磨に問う
垂示に云く、山を隔てて煙を見て、早に是れ火なることを知り、牆を隔てて角を見て、便ち是れ牛なることを知る。擧一明三、目機銖兩は、是れ衲家の尋常茶。衆流を截斷するに至っては、東涌西沒、逆順縱横、與奪自在なり。正當恁麼の時、且く道へ、是れ什麼人の行履の處ぞ。雪竇の葛藤を看取よ。

擧す。梁の武帝、達磨大師に問う、如何なるか是れ聖諦第一義。磨云く、廓然無聖。帝云く、朕に對する者は誰ぞ。磨云く、識らず。帝契わず。達磨遂に江を渡って魏に至る。帝、後に擧して志公に問う。志公云く、陛下還た此の人を識る否。帝云く、識らず。志公云く、此れは是れ觀音大士、佛心印を傳う。帝悔いて遂に使いを遣わし去きてぜんとす。志公云く、陛下、使いを發し去きて取えしめんとするは莫道、闔國の人去くも、佗は亦た回らず。

聖諦廓然、何當辨的。
對朕者誰、還云不識。
因茲暗渡江、豈免生荊棘。
闔國人追不再來、千古萬古空相憶。
休相憶、風匝地有何極。
師顧視左右云、這裏還有師麼。
自云、有。
喚來與老洗脚。

聖諦廓然、何當にか的を辯ぜん。朕に對する者は誰ぞ。還た云う識らずと。茲に因り暗に江を渡る、豈に荊棘を生ずることを免れんや。闔國の人追うも再來せず、千古萬古空しく相憶う。相憶うことを休めよ、風地に匝く何の極まることか有る。師左右を顧視して云く、這裏に還た師有りや。自ら云く、有り。喚び來たりて老の與に脚を洗わしめん。

第二則 趙州至道無難
垂示に云く、乾坤窄まり、日月星辰一時に黒し。直饒棒は雨の如く點り、喝は雷の似く奔るも、也た未だ向上宗乘中の事に當得せず。設使三世の佛も、只だ自知すべし。歴代の師も、全提し起ず。一大藏も、詮注し及ばず。明眼の衲も、自らを救い了れず。這裡に到って作麼生かせん。箇の佛の字を道えば、泥滯水。箇の禪の字を道えば、滿面の慚惶。久參の上士は、之を言うを待たず。後學初機は、直に須く究取むべし。

擧す。趙州、衆に示して云く、至道難きこと無し、唯だ揀擇を嫌う、と。纔かに語言有れば、是れ揀擇、是れ明白。老は明白の裏に在らず。是れ汝還た護惜する也無。時に有り、問う、に明白の裏に在らずんば、箇の什麼をか護惜せん。州云く、我れも亦知らず。云く、和尚に知らずんば、爲什麼にか却って明白の裏に在らずと道う。州云く、事を問うはち得し、禮拜し了らば退け。

至道無難、言端語端。
一有多種、二無兩般。
天際日上月下、
檻前山深水寒。
髑髏識盡喜何立、
枯木龍吟銷未乾。
難難。
揀擇明白、君自看。

至道難きこと無し、言端語端。一に多種有り、二に兩般無し。天際日上り月下り、檻の前に山深く水寒し。髑髏識盡きて喜何ぞ立らん、枯木龍吟して銷ゆるも未だ乾かず。難し難し。揀擇と明白と、君自ら看よ。

第三則 馬大師不安
垂示に云く、一機一境、一言一句に且く箇の入處有らんと圖れば、好肉上に瘡をり、を成し窟を成す。大用現前、軌則を存せず、且く向上の事有ることを知らんと圖れば、蓋天蓋地、又た模索不着。恁麼も也た得し、太だ廉繊生。恁麼も也た得からず、不恁麼も也た得からず、太だ孤危生。二途に渉らず、如何にすればち是ならん。う試に擧し看ん。

擧す。馬大師安らかならず。院主問う、和尚、近日尊候如何。大師曰く、日面佛、月面佛。

日面佛、月面佛。
五帝三皇是何物。
二十年來曾苦辛、
爲君幾下蒼龍窟。
屈。
堪述。
明眼衲莫輕忽。

日面佛、月面佛。五帝三皇、是れ何物ぞ。二十年來曾て苦辛し、君が爲に幾か蒼龍の窟に下る。屈。述ぶるに堪えんや。明眼の衲も輕忽にすること莫れ。

第四則 山複子を挾む
垂示に云く、天白日、更に東を指し西を劃すべからず。時節因、亦た須らく病に應じて藥を與うべし。且く道え、放行するが好きか、把定するが好きか。試みに擧し見ん。

擧す。山、山に到る。複子を挾んて法堂上を、東より西に過り、西より東に過り、顧視して無、無と云って便ち出づ。雪竇著語して云く、勘破し了れり。山、門首に至り、却って云く、也た草草にするは得からずと。便ち威儀を具え、再び入って相見す。山坐りおる次、山、坐具を提起して云く、和尚。山拂子を取らんと擬。山便ち喝して、袖を拂って出づ。雪竇著語して云く、勘破し了れり。山法堂に背却けて、草鞋を著けて便ち行く。山、晩に至って首座に問う、適來の新到、什麼處にか在る。首座云く、當時、法堂を背却け、草鞋を著けて出で去れり。山云く、此の子、已後孤峰頂上に向いて草庵を盤結え、佛を呵りを罵り去らん在。雪竇著語して云く、雪の上に霜を加う。

一勘破、二勘破。
雪上加霜曾嶮墮。
飛騎將軍入虜庭、
再得完全能幾箇。
急走過、不放過。
孤峰頂上草裏坐。
咄。

一たび勘破し、二たび勘破す。雪の上に霜を加え曾て嶮墮す。飛騎將軍虜庭に入る、再び完全し得るは能く幾箇ぞ。急て走過らんとするも、放過せず。孤峰頂上草裏に坐す。咄。

第五則 雪峰盡大地
垂示に云く、大凡そ宗を扶竪すには、須是らく英靈底漢にして人を殺すに眼もせざる底の手脚あって、方めて立地に成佛すべし。所以て照用同時、巻舒齊しく唱え、理事不二、権實並び行わる。一著を放過するは、第二義門を建立す。直下と葛藤を截斷せば、後學初機は、湊泊を爲し難し。昨日も恁麼なるは事已むことを得ざるも、今日も又た恁麼なるは、罪過天に彌つ。若是明眼の漢ならば、一點も他を謾るを得ず。其れ或は未だ然らざるも、虎口の裏に身を横たうれば、喪身失命を免れず。試に擧し看ん。

擧す。雪峰、衆に示して云く、盡大地撮み來れば、粟米粒如の大きさなり。面前に抛向すも、漆桶にして會せざらん。鼓を打って普し看よと。

牛頭沒、馬頭囘。
曹溪鏡裏絶塵埃。
打鼓看來君不見、
百花春至爲誰開。

牛頭沒れ、馬頭囘る。曹溪の鏡裏塵埃を絶す。鼓を打ち看來たるも君見ず、百花春至って誰が爲めにか開く。

第六則 雲門十五日
擧す。雲門埀語して云く、十五日已前は汝に問はず、十五日已後、一句を道い將ち來れ。自ら代って云く、日日是れ好日。

去却一、拈得七。
上下四維無等匹。
徐行蹈斷流水聲、
縱觀冩出飛禽跡。
草茸茸、煙羃羃。
空生巖畔花狼藉。
彈指堪悲舜若多。
莫動著。動著三十棒。

一を去却り、七を拈得す。上下四維に等匹無し。徐に行きて蹈斷く流水の聲、縱に觀て冩き出す飛禽の跡。草は茸茸、煙は羃羃。空生の巖畔花狼藉たり。彈指して悲しむに堪えたり舜若多。動著くこと莫れ。動著かば三十棒せん。

第七則 法眼、慧超に答う
垂示に云く、聲前の一句は、千聖も傳えず。未だ曾て親しく覲ざれば、大千を隔つるが如し。設使聲前に辨得して、天下の人の舌頭を截斷するも、亦た未だ是れ性燥の漢にあらず。所以に道う、天も蓋う能わず、地も載する能はずと。空も容るる能わず、日月も照す能わずと。佛無き處に獨り尊と稱して、始めて較うこと些子なり。其れ或は未だ然らずんば、一毫頭上に透得し、大光明を放って、七縱八横、法に於て自在自由にして、手に信せて拈じ來るに、不是あること無し。且く道え、箇の什麼を得てか、此の如く奇特たる。復た云く、大衆會すや。從前の汗馬人の識る無し、只だ重ねて蓋代の功を論ぜんことを要す。今の事は且く致く、雪竇の公案、又た作麼生。下文を看取よ。

擧す。、法眼に問う、慧超、和尚に咨う、如何なるか是れ佛。法眼云く、汝は是れ慧超。

江國春風吹不起、
鷓鴣啼在深花裏。
三級浪高魚化龍、
癡人猶夜塘水。

江國の春風吹き起らず、鷓鴣啼いて深花裏に在り。三級の浪高くして魚は龍と化せるに、癡人猶おむ夜塘の水。

第八則 翠巖、夏末に衆に示す
垂示に云く、會すれば途中受用、龍の水を得るが如く、虎の山に靠るに似たり。會せざれば世諦流布、羝羊藩に觸れ、株を守って兎を待つ。有る時の一句は、踞地獅子の如く、有る時の一句は、金剛王寶劒の如く、有る時の一句は、天下の人の舌頭を坐斷し、有る時の一句は、波に隨い浪を逐う。若也途中受用ならば、知音に遇いて機宜を別ち休咎を識り、相共に證明せん。若也世諦流布ならば、一隻眼を具して、以て十方を坐斷して、壁立千仭なるべし。所以に道う、大用現前して軌則を存せず。有る時は一莖の草を將て丈六の金身の用を作し、有る時は丈六の金身を將て一莖の草の用を作す、と。且く道え、箇の什麼の道理にか憑る。還て委悉すや。試みに擧し看ん。

擧す。翠巖、夏末に衆に示して云く、一夏以來、兄弟の爲めに話す。看よ、翠巖が眉毛在りや。保云く、賊と作す人は心なり。長慶云く、生ぜり。雲門云く、關。

翠巖示徒、千古無對。
關字相酬、失錢遭罪。
潦倒保、抑揚難得。
翠巖、分明是賊。
白圭無、誰辨眞假。
長慶相諳、眉毛生也。

翠巖、徒に示せるは、千古に對無し。關字もて相酬ゆるは、錢を失い罪に遭う。潦倒たる保は、抑揚得難し。たる翠巖は、分明に是れ賊。白圭無し、誰か眞假を辨ぜん。長慶相諳んじ、眉毛生ぜり、と。

第九則 趙州の東西南北
垂示に云く、明鏡臺に當りて、妍醜自ら辨ず。手に在りて、殺活時に臨む。漢去り胡來たり、胡來たり漢去る。死中に活を得、活中に死を得。且く道え、這裏に到って又た作麼生。若し透關底眼、轉身の處無くんば、這裏に到って灼然に奈何ともならず。且く道え、如何なるか是れ透關底眼、轉身の處。試みに擧し看ん。

擧す。、趙州に問う、如何なるか是れ趙州。州云く、東門、西門、南門、北門。

句裏呈機劈面來、
羅眼絶纖埃。
東西南北門相對、
無限輪鎚撃不開。

句の裏に機を呈して劈面から來たり、爍羅眼、纖埃を絶す。東西南北の門相對して、限り無く鎚を輪すも撃ち開けられず。

第十則 睦州、に甚處ぞと問う
垂示に云く、恁麼恁麼、恁麼ならず恁麼ならず。若し論戰せば、箇箇轉處に立在たん。所以に道う、若し向上に轉じ去らば、直得は、釋、彌勒、文殊、普賢、千聖萬聖、天下の宗師も、普く皆な氣を飮み聲を呑まん。若し向下に轉じ去らば、醯鷄、蠢動含靈、一一大光明を放って、一一壁立萬仭ならん。儻或不上不下ならば、又た作麼生か商量せん。條有れば條に攀り、條無ければ例に攀る。試みに擧し看ん。

擧す。睦州、に問う、近ごろ甚處を離れしや。便ち喝す。州云く、老汝に一喝せらる。又た喝す。州云く、三喝四喝の後作麼生。無語。州便ち打って云く、這の掠頭の漢。

兩喝與三喝、作者知機變。
若謂騎虎頭、二倶成瞎漢。
誰瞎漢。
拈來天下與人看。

兩喝と三喝と、作者は機變を知る。若し虎の頭に騎ると謂わば、二り倶に瞎漢と成らん。誰か瞎漢なる。拈じ來たりて天下に人の與に看せしむ。

第十一則 黄檗酒糟の漢
垂示に云く、佛の大機、全く掌握に歸し、人天の命脈、悉く指呼を受く。等閑き一句一言も群を驚かし衆を動かし、一機一境は鎖を打ち枷を敲く。向上の機を接し、向上の事を提す。且く道え、什麼人か曾て恁麼にし來たる。還た落處を知るもの有りや。試みに擧し看ん。

擧す。黄檗、衆に示して云く、汝等人、盡く是れ酒糟の漢なり。恁麼に行脚せば、何處にか今日あらん。還た大唐國裏に禪師無きことを知るや。時にあり出でて云く、只だ方の徒を匡し衆を領いるが如きは、又た作麼生。檗云く、禪無しとは道ず、只是れ師無し。

凛凛孤風不自誇、
端居寰海定龍蛇。
大中天子曾輕觸、
三度親遭弄爪牙。

凛凛たる孤風自ら誇らず、寰海に端居して龍蛇を定む。大中天子曾て輕觸して、三度親しく爪牙を弄するに遭う。

第十二則 洞山の三斤
垂示に云く、殺人刀、活人劍は、乃ち上古の風規にして、亦た今時の樞要なり。若し殺を論ぜば、一毫も傷つけず。若し活を論ぜば、喪身失命す。所以に道う、向上の一路は千聖すら傳えず。學ぶ者の形を勞すること、猿の影を捉えんとするが如し。且く道え、是に傳えずんば、爲什麼にか却って許多の葛藤公案ある。具眼の者は、試みにき看よ。

擧す。、洞山に問う、如何なるか是れ佛、山云く、三斤。

金烏急、玉兎速。
善應何曾有輕觸。
展事投機見洞山、
跛鼈盲龜入空谷。
花簇簇、錦簇簇、
南地竹兮北地木。
因思長慶陸大夫、
解道合笑不合哭。


金烏急く、玉兎速し。善く應ず何ぞ曾て輕觸有らん。展事投機に洞山を見る、跛鼈盲龜は空谷に入る。花簇簇、錦簇簇、南地の竹、北地の木。因って思う、長慶と陸大夫、解くぞ道えり、笑ふ合し、哭く合からずと。

第十三則 巴陵の銀椀裏
垂示に云く、雲大野に凝れば、界藏れず。雪蘆花を覆えば、朕迹を分け難し。冷たき處は氷雪よりも冷たく、細かき處は米末よりも細かなり。深深たる處は佛眼も窺い難く、密密たる處は魔外も測ること莫し。擧一明三はち且く止く、天下の人の舌頭を坐斷して。作麼生か道わん。且く道え、是れ什麼人の分上の事ぞ。試みに擧し看ん。

擧す。、巴陵に問う、如何なるか是れ提婆宗。巴陵云く、銀椀裏に雪を盛る。

老新開、端的別、
解道銀椀裏盛雪。
九十六箇應自知、
不知却問天邊月。
提婆宗、提婆宗、
赤幡之下起風。

老新開。端的に別なり、解くぞ道えり、銀椀裏に雪を盛ると。九十六箇應に自知すべし、知らずんば却って天邊の月に問え。提婆宗、提婆宗、赤幡の下風を起す。

第十四則 雲門對一
擧す。、雲門に問う、如何なるか是れ一代時。雲門云く、對一

對一、太孤絶。
無孔鐵鎚重下楔。
閻浮樹下笑呵呵、
昨夜驪龍拗角折。
別、別。
韶陽老人得一

對一、太だ孤絶。無孔の鐵鎚重ねて楔を下す。閻浮樹下笑うこと呵呵、昨夜驪龍角を拗し折らる。別なり、別なり。韶陽老人一を得たり。

第十五則 雲門の倒一
垂示に云く、殺人刀、活人劍は乃ち上古の風規にして、是れ今時の樞要なり。且く道え、如今那箇か是れ殺人刀、活人劍。試みに擧し看ん。

擧す。、雲門に問う、是れ目前の機にあらず、亦た目前の事にも非ざる時は如何。門云く、倒一

倒一、分一節。
同死同生爲君訣。
八萬四千非鳳毛、
三十三人入虎穴。
別、別。
擾擾怱怱水裏月。

倒一、分一節。同死同生君が爲めに訣す。八萬四千は鳳毛に非ず、三十三人虎穴に入る。別なり、別なり。擾擾怱怱たり水裏の月。

第十六則 鏡草裏の漢
垂示に云く、道に横徑無ければ、立つ者は孤危なり。法は見聞に非ず、言思迥かに絶つ。若し能く荊棘の林を透過し、佛の縛を解開ちて、箇の穏密の田地を得ば、天も花を捧ぐるに路無く、外道も潜かに窺うに門無けん。終日行じて未だ嘗て行ぜず、終日いて未だ嘗てかずして、便ち以て自由自在にして、啄の機を展べ、殺活の劍を用うべし。直饒恁麼なるも、更に須らく建化門中、一手擡、一手搦有ることを知るも、猶お些子く較えり。若是本分事の上ならば、且得沒交渉。作麼生か是れ本分事。試みに擧し看ん。

擧す。、鏡に問う、學人す、う師啄せよ。云く、還た活くるを得るや也無。云く、若し活きずんば、人に怪笑われん。云く、也た是れ草裏の漢。

古佛有家風、
對揚遭貶剥。
子母不相知、
是誰同啄。
啄、覺、
猶在殻、重遭撲。
天下衲徒名

古佛に家風有り、對揚するや貶剥に遭う。子と母と相知らず、是れ誰か同じく啄す。啄されて、覺くも、猶お殻に在り、重ねて撲に遭ふ。天下の衲徒に名す。

第十七則 香林の西來意
垂示に云く、釘を斬り鐵を截って、始めて本分の宗師たるべし。箭を避け刀に隈るれば、焉んぞ能く通方の作者たらん。針剳不入の所は則ち且く置く、白浪蹈天の時如何。試みに擧し看ん。

擧す。香林に問ふ、如何なるか是れ師西來意。林云く、坐久成勞。

一箇兩箇千萬箇、
却篭頭卸角駄。
左轉右轉隨後來、
紫胡要打劉鐵磨。

一箇兩箇千萬箇、篭頭を却し角駄を卸す。左轉右轉するも隨後に來たり、紫胡は劉鐵磨を打たんと要す。

第十八則 肅宗、塔樣を
擧す。肅宗皇帝忠國師に問う、百年の後、須むる所は何物ぞ。國師云く、老の與に箇の無縫塔を作れ。帝曰く、師の塔樣をう。國師良久して云く、會すや。帝云く、會せず。國師云く、吾れに付法の弟子の耽源なるものあり、却って此の事を諳る。う詔して之に問え。國師遷化の後、帝、耽源に詔して、此意如何と問う。源云く、湘の南、潭の北。雪竇著語して云く、獨掌浪りに鳴らず。中に黄金有って一國に充つ。雪竇著語して云く、山形の杖子。無影樹下の合同船。雪竇著語して云く、海は晏やか河はむ。瑠璃殿上に知識無し。雪竇著語して云く、拈じ了れり。

無縫塔、見還難。
澄潭不許蒼龍蟠。
層落落、影團團。
千古萬古與人看。

無縫塔、見ること還って難し。澄潭には許さず蒼龍の蟠るを。層落落、影團團。千古萬古人の與に看せしむ。

第十九則 倶胝の指頭禪
垂示に云く、一塵擧って大地收まり、一花開いて世界起る。只だ塵未だ擧らず、花未だ開かざる時の如きは、如何か眼を著けん。所以に道う、一綟絲を斬るが如し、一斬すれば一切斬。一綟絲を染るが如し、一染すれば一切洗と。只だ如今便ち葛藤を將て截斷して、自己の家珍を運出せば、高低普く應じ、前後差うこと無く、各各現成せん。儻或未だ然らずんば、下文を看取よ。

擧す。倶胝和尚、凡そ所問あれば、只だ一指を竪つ。

對揚深愛老倶胝、
宇宙空來更有誰。
曾向滄溟下浮木、
夜涛相共接盲龜。

對揚深く愛す老倶胝、宇宙空じ來って更に誰か有る。曾て滄溟に浮木を下して、夜涛相共に盲龜を接す。

第二十則 龍牙の西來意
垂示に云く、堆山積嶽。撞墻壁。佇思停機するは、一場の苦屈なり。或は箇の漢有って出で來たり、大海を掀し、須彌を倒し、白雲を喝散し、空を打破して、直下に一機一境に向いて、天下の人の舌頭を坐斷せば、爾が近傍る處無からん。且く道え、從上來是れ什麼人か曾て恁麼なる。試みに擧し看ん。

擧す。龍牙、翠微に問う、如何なるか是れ師西來意。微云く、我が與に禪板を過ち來たれ。牙、禪板を過して翠微に與う。微、接得りて便ち打つ。牙云く、打つことはち打つに任すも要且つ師西來意無し。牙、又た臨濟に問う、如何なるか是れ師西來意。濟云く、我が與に蒲團を過ち來たれ。牙、蒲團を取って臨濟に過與す。濟、接得りて便ち打つ。牙云く、打つことはち打つに任すも要且つ師西來意無し。

龍牙山裏龍無眼、
死水何曾振古風。
禪板蒲團不能用、
只應分付與盧公。

龍牙山裏、龍に眼無し、死水何ぞ曾て古風を振わん。禪板蒲團用うること能はず、只だ應に分付して盧公に與うべし。

這の老漢を也た未だ勦絶し得ずと、復た一頌を成す。
盧公に付し了るも亦た何ぞ憑らん、坐倚して將て燈を繼ぐことを休めよ。對するに堪す、暮雲の歸って未だ合せず、遠山限り無く碧層層たり。

第二十一則 智門の蓮華荷葉
垂示に云く、法幢を建て宗旨を立つるは、錦上に華を舗く。篭頭をし角駄を卸すは、太平の時節。或若格外の句を辨得せば、擧一明三。其れ或は未だ然らずんば、依舊伏して處分を聽え。

擧す。、智門に問う、蓮花未だ水を出でざる時如何。智門云く、蓮花。云く、水を出て後如何。門云く、荷葉。

蓮花荷葉報君知、
出水何如未出時。
江北江南問王老、
一狐疑了一狐疑。

蓮花、荷葉と、君に報じて知らしむ、水を出づるは未だ出でざる時に何如。江北江南、王老に問うて、一狐疑い了って一狐疑う。

第二十二則 雪峰の鼈鼻蛇
垂示に云く、大方外無く、細なること隣の若し。擒縱他に非ず、巻舒我に在り。必ず粘を解き縛を去らんと欲せば、直に須らく迹を削り聲を呑み、人人、要津を坐斷し、箇箇、壁立千仭なるべし。且く道え、是れ什麼人の境界ぞ。試みに擧し看ん。

擧す。雪峰、衆に示して云く、南山に一條の鼈鼻蛇あり。汝等人、切に須らく好く看るべし。長慶云く、今日、堂中にて大に人の喪身失命する有り。、玄沙に擧似す。玄沙云く、須是らく稜兄にして始めて得し。此の如くなりと雖然も、我はち恁麼にせず。云く、和尚作麼生。玄沙云く、南山を用て什麼か作ん。雲門杖を以て雪峰の面前に向けて、怕るる勢を作す。

象骨巖高人不到、
到者須是弄蛇手。
稜師備師不奈何、
喪身失命有多少。
韶陽知、重撥草、
南北東西無處討。
忽然突出杖頭。
抛對雪峰大張口。
大張口兮同閃電、
剔起眉毛還不見。
如今藏在乳峰前、
來者一一看方便。
師高聲喝云、看脚下。

象骨は巖高くして人到らず、到る者は須是らく弄蛇手なるべし。稜師、備師、奈何ともせず、喪身失命するもの多少か有る。韶陽は知り、重ねて草を撥う、南北東西討ぬるに處無し。忽然と杖頭を突き出し。雪峰に抛對げて大いに口を張く。大いに口を張くや閃電に同じ、眉毛を剔起するも還た見えず。如今、乳峰の前に藏在す、來たる者は一一方便するを看よ。師、高聲に喝して云く、脚下を看よ。

第二十三則 保の妙峰頂
垂示に云く、玉は火を將て試み、金は石を將て試み、劍は毛を將て試み、水は杖を將て試む。衲門下に至っては、一言一句、一機一境、一出一入、一挨一拶に深淺を見んことを要し、向背を見んことを要す。且く道え、什麼を將てか試みん。う擧し看ん。

擧す。保と長慶と、山に遊びし次、、手を以て指して云く、只だ這裏こそは便ち是れ妙峰頂。慶云く、是なることは則ち是なるも、可惜許。雪竇著語して云く、今日這の漢と共に山に遊ばば、箇の什麼をか圖らん。復た云く、百千年後も無しとは道わず、只だ是れ少なり。後に鏡に擧似す。云く、若し是れ孫公にあらずんば、便ち髑髏の野に遍きを見ん。

妙峰孤頂草離離、
拈得分明付與誰。
不是孫公辨端的、
髑髏著地幾人知。

妙峰孤頂、草離離たり、拈得して分明に誰にか付與えん。是れ孫公の端的を辨ずるにあらずんば、髑髏の地に著くを幾人か知らん。

第二十四則 劉鐵磨、臺山
垂示に云く、高高たる峰頂に立てば、魔外も能く知ること莫し。深深たる海底に行けば、佛眼もれども見えず。直饒眼は流星の似く、機は掣電の如くなるも、未だ免れず靈龜尾を曳くことを。這裏に到って、合に作麼生なるべき。試みに擧し看ん。

擧す。劉鐵磨、山に到る。山云く、老牛、汝來たれり。磨云く、來日、臺山に大會齋あり、和尚還た去くや。山身を放って臥す。磨便ち出で去る。

曾騎鐵馬入重城、
勅下傳聞六國
猶握金鞭問歸客、
夜深誰共御街行。

曾て鐵馬に騎って重城に入るも、勅下って傳聞し六國し。猶お金鞭を握って歸客に問う、夜深けて誰と共に御街を行かん、と。

第二十五則 蓮華菴主住せず
垂示に云く、機、位を離れざれば、毒海に墮在つ。語、群を驚かさずんば、流俗に陷る。忽若撃石火裏に緇素を別ち、閃電光中に殺活を辨ぜば、以て十方を坐斷して、壁立千仭なるべし。還た恁麼の時節有ることを知るや。試みに擧し看ん。

擧す。蓮華峰菴主、杖を拈じて衆に示して云く、古人這裏に到って、爲什麼にか住すること肯ぜざる。衆、無語。自ら代って云く、他の途路に力を得ざりしが爲なり。復た云く、畢竟如何。又た自ら代って云く、横に擔って人を顧みず、直に千峰萬峰に入り去る。

眼裏塵沙耳裏土、
千峰萬峰不肯住。
落花流水太茫茫、
剔起眉毛何處去。

眼裏の塵沙、耳裏の土、千峰萬峰住することを肯せず。落花流水太だ茫茫たり、眉毛を剔起して何處にか去く。

第二十六則 百丈の奇特の事
擧す。、百丈に問う、如何なるか是れ奇特の事。丈云く、獨り大雄峰に坐す。、禮拜す。丈、便ち打つ。

域交馳天馬駒、
化門舒巻不同途。
電光石火存機變、
堪笑人來虎鬚。

域交馳す天馬の駒、化門舒巻して途を同じくせず。電光石火、機變を存す。笑うに堪えたり人の來たりて虎鬚をくは。

第二十七則 雲門の體露金風
垂示に云く、一を問えば十を答え、一を擧すれば三を明らめ、兎を見ては鷹を放ち、風に因って火を吹く。眉毛を惜しまざることは則ち且く置く。只だ虎穴に入る時の如きは如何。試みに擧し看ん。

擧す。、雲門に問う、樹凋み葉落つる時、如何。雲門云く、體露金風。

有宗、
答亦攸同。
三句可辨、
一鏃遼空。
大野兮凉飆颯颯、
長天兮疎雨濛濛。
君不見、
少林久坐未歸客、
靜依熊耳一叢叢。

問にに宗有り、答えも亦た同じき攸。三句辨ずべし、一鏃空に遼なり。
大野は凉飆颯颯たり、長天は疎雨濛濛たり。君見ずや、少林久坐未歸の客、靜かに依る熊耳の一叢叢。

第二十八則 涅槃和尚
擧す。南泉、百丈の涅槃和尚に參ず。丈問う、從上の聖、還た人の爲にかざる底の法ありや。泉云く、有り。丈云く、作麼生か是れ人の爲にかざる底の法。泉云く、不是心、不是佛、不是物。丈云く、き了れり。泉云く、某甲は只だ恁麼、和尚は作麼生。丈云く、我れ又た是れ大善知識にあらず、爭かくとかざると有ることを知らん。泉云く、某甲會せず。丈云く、我れ太が爲にき了れり。

佛從來不爲人、
今古競頭走。
明鏡當臺列像殊、
一一面南看北斗。
斗柄垂、無處討、
拈得鼻孔失却口。

佛は從來、人の爲にせず、衲は今も古も、競頭に走る。明鏡の臺に當って列像殊なり、一一南に面して北斗を看る。斗柄垂るるも、討ぬるに處無し、鼻孔を拈得えられ口を失却う。

第二十九則 大隋の劫火洞然
垂示に云く、魚行げば水濁り、鳥飛べば毛落つ。明らかに主賓を辨じ、洞かに緇素を分つ。直に當臺の明鏡、掌内の明珠に似たり。漢現り胡來たり、聲に彰れ色に顯る。且く道え、爲什麼にか此の如くなる。試みに擧し看ん。

擧す。大隋に問う、劫火洞然として、大千倶に壞す。未審、這箇は壞するか壞せざるか。隋云く、壞す。云く、恁麼ならば則ち他に隨い去かん。隋云く、他に隨い去け。

劫火光中立問端、
猶滯兩重關。
可憐一句隨他語、
萬里區區獨往還。

劫火光中に問端を立つ、衲猶お兩重の關に滯る。憐ずべし一句他に隨うの語、萬里區區として獨り往還す。

第三十則 趙州の大蘿蔔
擧す。、趙州に問う、承り聞く、和尚親しく南泉に見ゆと、是なりや。州云く、鎭州に大蘿蔔頭を出だす。

鎭州出大蘿蔔、
天下衲取則。
只知自古自今、
爭辨鵠白烏黒。
賊、賊、
鼻孔曾拈得。

鎭州に大蘿蔔を出だし、天下の衲則を取る。只だ自古自今を知るのみならば、爭か辨ぜん鵠は白く烏は黒きことを。賊、賊、衲の鼻孔曾て拈得す。

第三十一則 谷、錫を振い床を遶る
垂示に云く、動ずれば則ち影現れ、覺すれば則ち氷生ず。其れ或は動ぜず覺せざるも、野狐の窟裏に入るを免れず。透得徹し信得及って、絲毫の障翳も無きときは、龍の水を得るが如く、虎の山に靠るに似たり。放行するや瓦礫も光を生じ、把定するや眞金も色を失す。古人の公案、未だ周遮なるを免れず。且道、什麼なる邊の事をか評論する。試みに擧し看ん。

擧す。谷、錫を持して章敬に到る。禪床を遶ること三匝、錫を振うこと一下して、卓然として立つ。敬云く、是なり、是なり。雪竇著語して云く、錯てり。谷、又た南泉に到る。禪床を遶ること三匝、錫を振うこと一下して、卓然として立つ。泉云く、不是、不是。雪竇著語して云く、錯てり。谷、當時云く、章敬は是なりと道えり、和尚は爲什麼にか不是と道う。泉云く、章敬はち是なり、是れ汝は不是。此れは是れ風力の轉ずる所、終に敗壞を成すなり。

此錯彼錯、
切忌拈却。
四海浪平、
百川潮落。
古策風高十二門、
門門有路空蕭索。
非蕭索。
作者好求無病藥。

此の錯彼の錯、切に忌む拈却することを。四海浪平らかに、百川潮落つ。古策風高し十二門、門門路あるも空しく蕭索たり。蕭索に非ず。作者好し求めよ無病の藥を。

第三十二則 臨濟の仏法大意
垂示に云く、十方坐斷して、千眼頓に開き、一句流れを截ちて、萬機寝削す。還た同死同生する底有りや。見成公案、打疊不下ならば、古人の葛藤、試みに擧し看ん。

擧す。定上座、臨濟に問う、如何なるか是れ仏法の大意。濟、禪床を下り、擒住んで一掌を與え便ち托開す。定、佇立す。傍の云く、定上坐、何ぞ禮拜せざる。定、禮拜するに方って、忽然と大悟す。

斷際全機繼後蹤、
持來何必在從容。
巨靈擡手無多子、
分破華山千萬重。

斷際の全機後蹤に繼がる、持ち來たること何ぞ必ずしも從容に在らん。巨靈手を擡ぐるに多子無し、分破す華山の千萬重。

第三十三則 陳尚書、資に看ゆ
垂示に云く、東西辨ぜず、南北分たずして、朝より暮に至り、暮より朝に至る。還た伊睡すと道わんや。有る時は眼流星に似たり。還た伊惺惺と道わんや。有る時は南を呼んで北と作す。且道、是れ有心か是れ無心か、是れ道人か是れ常人か。若し箇裏に向いて透得し、始めて落處を知らば、方に古人の恁麼なると恁麼ならざるとを知らん。且道、是れ什麼なる時節ぞ。試みに擧し看ん。

擧す。陳操尚書、資に看ゆ。、來たるを見て、便ち一圓相を畫く。操云く、弟子、恁麼に來たるすら、早是に便を著ざるに、何ぞ况んや更に一圓相を畫くとは。、便ち方丈の門を掩却す。雪竇云く、陳操は只だ一隻眼を具すと。

團團珠遶玉珊珊、
馬載驢上鐵船。
分付海山無事客、
釣鼇時下一圏攣。
雪竇復云、
天下衲跳不出。

團團として珠は遶り玉は珊珊たり、馬載驢、鐵船に上す。分付す海山無事の客、鼇を釣るに時に下す一圏攣。雪竇復た云く、天下の衲、跳け出せず。

第三十四則 仰山、甚處より來たるかを問う
擧す。仰山、に問う、近ごろ甚處を離れしや。云く、廬山。山云く、曾て五老峰に遊ぶや。云く、曾て到らず。山云く、闍黎は、曾て遊山せず。雲門云く、此の語、皆な慈悲の爲の故に、落草の談あり。

出草入草、
誰解尋討。
白雲重重、
紅日杲杲。
左顧無暇、
右盻已老。
君不見寒山子、行太早。
十年歸不得、忘却來時道。

出草し入草するを、誰か解く尋討する。白雲重重、紅日杲杲。左顧いるに暇無く、右盻すれば已に老ゆ。君見ずや寒山子の、行くこと太だ早きを。十年歸り得ず、來時の道を忘却せり。

第三十五則 文殊の前三三
垂示に云く、龍蛇を定め、玉石を分ち、緇素を別ち、猶豫を決するに、若し是れ頂門上に眼あり、肘臂下に符あるにあらずんば、往往に當頭に蹉過わん。只だ如今見聞不昧、聲色純眞ならば、且道、是れ皀か是れ白か、是れ曲か是れ直か。這裏に到って作麼生か辨ぜん。

擧す。文殊、無著に問う、近ごろ什麼處を離れしや。無著云く、南方。殊云く、南方の仏法、如何にか住持する。著云く、末法の比丘、戒律を奉ずるもの少なり。殊云く、多少の衆ぞ。著云く、或は三百、或は五百。無著、文殊に問う、此間にては如何にか住持する。殊云く、凡聖同居、龍蛇混雜す。著云く、多少の衆ぞ。殊云く、前三三、後三三。

千峰盤屈色如藍、
誰謂文殊是對談。
堪笑涼多少衆、
前三三與後三三。

千峰盤屈して色藍の如し、誰か謂う文殊是に對談すと。笑う堪し涼多少の衆、前三三と後三三と。

第三十六則 長沙、一日遊山す
擧す。長沙、一日遊山して、歸って門首に至る。首座問う、和尚什麼處にか去き來たれる。沙云く、遊山し來たる。首座云く、什麼處にか到り來たれる。沙云く、始めは芳草に隨って去き、又た落花を逐って囘る。座云く、大いに春意に似たり。沙云く、也た秋梅雨の芙に滴るに勝れり。雪竇著語して云く、答話を謝す。

大地絶繊埃、
何人眼不開。
始隨芳草去、
又逐落花囘。
羸鶴翹寒木、
狂猿嘯古臺。
長沙無限意。
咄。

大地繊埃を絶す、何人か眼開かざる。始めは芳草に隨って去き、又た落花を逐って囘る。羸鶴寒木に翹き、狂猿古臺に嘯く。長沙限り無きの意。咄。

第三十七則 盤山の三界無法
垂示に云く、掣電の機は徒らに佇思を勞し、空に當るの霹靂は耳を掩うに諧い難し。腦門の上に紅旗を播めかせ、耳の背後に雙劍を輪す。若し是れ眼辨じ手親しきにあらずんば、爭か能く搆り得ん。有般底は低頭佇思、意根下に卜度り、殊に知らず髑髏の前に鬼を見ること無數なるを。且道、意根に落ちず、得失に拘れず、忽し箇の恁麼に擧覺するもの有らば、作麼生か祇對せん。試みに擧し看ん。

擧す。盤山埀語して云く、三界無法、何處にか心を求めん。

三界無法、
何處求心。
白雲爲蓋、
流泉作琴。
一曲兩曲無人會、
雨過夜塘秋水深。

三界無法、何處にか心を求めん。白雲を蓋と爲し、流泉を琴と作す。一曲兩曲人の會する無く、雨過ぎし夜塘に秋水深し。

第三十八則 風穴の鐵牛の機
垂示に云く、若し漸を論ぜば、常に返いて道に合す、閙市裏に七縱八横。若し頓を論ぜば、朕迹を留めず、千聖も亦た摸索不著。儻或頓漸を立てずんば、又た作麼生。快人は一言、快馬は一鞭、正に恁麼なる時、誰か是れ作者なる。試みに擧し看ん。

擧す。風穴、郢州の衙内に在って上堂して云く、師の心印、鐵牛の機に状似たり。去ればち印は住し、住すればち印は破す。只だ去らず住せざるが如きは、印するがち是か、印せざるがち是か。時に盧陂長老なるものあり、出でて問う、某甲、鐵牛の機あり、う師、印を搭せざれ。穴云く、鯨鯢を釣って巨浸を澄ましむるに慣れて、却って嗟く蛙歩の泥沙にぶことを。陂、佇思す。穴、喝して云く、長老、何ぞ進語せざる。陂、擬義す。穴、打つこと一拂子。穴云く、還た話頭を記得すや。試みに擧し看よ。陂、口を開かんと擬す。穴又た打つこと一拂子。牧主云く、仏法と王法と一般なり。穴云く、箇の什麼の道理をか見る。牧主云く、當に斷ずべくして斷ぜず、返って其の亂を招く。穴便ち下座す。

擒得盧陂跨鐵牛、
三玄戈甲未軽酬。
楚王城畔朝宗水、
喝下曾令却倒流。

盧陂を擒得えて鐵牛に跨がらせ、三玄の戈甲未だ軽しく酬いず。楚王城畔朝宗の水、喝下に曾て却って倒流せしむ。

第三十九則 雲門の金毛の獅子
垂示に云く、途中受用底は、虎の山に靠るに似たり。世諦流布底は、猿の檻に在るが如し。佛性の義を知らんと欲せば、當に時節因を觀るべし。百練の金をえんと欲せば、須是らく作家の爐鞴なるべし。且道、大用現前底は、什麼を將てか試驗せん。

擧す。、雲門に問う、如何なるか是れ淨法身。門云く、花藥欄。云く、便ち恁麼にし去る時、如何。門云く、金毛の獅子。

花藥欄、莫
星在秤兮不在盤。
便恁麼、太無端。
金毛獅子大家看。

花藥欄、すること莫れ。星は秤に在りて盤に在らず。便ち恁麼にするは、太だ端無し。金毛の獅子、大家看よ。

第四十則 南泉、夢の如くに相似たり
垂示に云く、休し去り歇し去れば、鐵樹花を開く。有りや有りや、黠兒落節す。直饒七縱八横なるも、他の鼻孔を穿つを免れず。且道、訛什麼處にか在る。試みに擧し看ん。

擧す。陸亘大夫、南泉と語話せし次、陸云く、肇法師道く、天地は我と同根、萬物は我と一體と。也た甚だ奇怪なり。南泉、庭前の花を指して、大夫を召して云く、此の一株の花を見ること、夢の如くに相似たり。

聞見覺知非一一、
山河不在鏡中觀。
霜天月落夜將半、
誰共澄潭照影寒。

聞見覺知、一一に非ず、山河は鏡中の觀に在らず。霜天月落ちて夜將に半ばならんとす、誰か共に澄潭に影を照して寒き。

第四十一則 趙州大死底の人
垂示に云く、是非交結の處は、聖も亦た知る能わず。逆順縱横の時は、佛も辨ずる能わず。絶世超倫の士と爲り、逸群大士の能を顯す。氷凌の上を行き、劍刃の上を走くは、直下に麒麟の頭角の如く、火の裏の蓮華の似し。宛も超方なるを見て、始めて同道なるを知る。誰か是れ好手の者ぞ。試みに擧し看ん。

擧す。趙州、投子に問う、大死底の人、却って活する時如何。投子云く、夜行を許さず、明に投じて須らく到るべし。

活中有眼還同死、
藥忌何須鑑作家。
古佛尚言曾未到、
不知誰解撒塵沙。

活中に眼有れば還た死に同じ、藥忌何ぞ須いん作家を鑑するを。古佛すら尚お言う曾て未だ到らずと、知らず誰か解く塵沙を撒く。

第四十二則 居士の好雪片片
垂示に云く、單提獨弄するは、帶水泥。敲唱倶に行うは、銀山鐵壁。擬義すればち髑髏の前に鬼を見、尋思すれば則ち黒山の下に打坐す。明明たる杲日天に麗き、颯颯たる風地を匝る。且道、個人還た訛たる處有りや。試みに擧し看ん。

擧す。居士、藥山を辞す。山、十人の禪客に命じて相送りて門首に至らしむ。居士、空中の雪を指さして云く、好雪、片片別處に落ちず。時に全禪客有り、云く、什麼處にか落在する。士打つこと一掌。全云く、居士也た草草なることを得ざれ。士云く、汝恁麼に禪客と稱すれば、閻老子未だ汝を放さざる在。全云く、居士は作麼生。士又た打つこと一掌。云く、眼は見るも盲の如く、口はうも唖の如し。雪竇別して云く、初問の處に但だ雪團を握って便ち打たん。

雪團打、雪團打。
老機關沒可把。
天上人間不自知。
眼裏耳裏絶瀟灑。
瀟灑絶、
碧眼胡難辨別。

雪團もて打て、雪團もて打て。老の機關、把うべき沒し。天上人間、自ずから知らず。眼裏耳裏、瀟灑を絶す。瀟灑絶して、碧眼の胡も辨別難し。

第四十三則 洞山の寒暑廻避
垂示に云く、乾坤を定むるの句は、萬世共に遵い、虎を擒うるの機は、千聖も辨ずる莫し。直下に更に纎翳なく、全機隨處に齊しく彰る。向上の鉗鎚を明めんと要せば、作家の爐鞴を須是つべし。且道、從上來還た恁麼なる家風あり也無。試みに擧し看ん。

擧す。、洞山に問う、寒暑到來せば、如何か廻避せん。山云く、何ぞ寒暑無き處に去かざる。云く、如何なるか是れ寒暑無き處。山云く、寒き時は闍黎を寒殺し、熱き時は闍黎を熱殺す。

垂手還同萬仞崖、
正偏何必在安排。
琉璃古殿照明月、
忍俊韓空上階。

垂手還って萬仞の崖に同じ、正偏何ぞ必ずしも安排に在らん。琉璃の古殿に明月照き、忍俊たる韓も空しく階に上る。

第四十四則 禾山、解く鼓を打つ
擧す。禾山埀語して云く、修學、之を聞と謂い、絶學、之を隣と謂う。此の二つを過ぐる者、是を眞過と爲す。出でて問う、如何なるか是れ眞過。山云く、解く鼓を打つ。又た問う、如何なるか是れ眞諦。山云く、解く鼓を打つ。又た問う、佛はち問わず、如何なるか是れ非心非佛。山云く、解く鼓を打つ。又た問う、向上の人來たる時、如何にか接する。山云く、解く鼓を打つ。

石、二般土。
發機須是千鈞弩。
象骨老師曾毬、
爭似禾山解打鼓。
報君知、莫莽鹵。
甜者甜兮苦者苦。

一に石をき、二に土を般ぶ。機を發するは須是らく千鈞の弩なるべし。象骨老師曾て毬をすも、爭か似かん禾山の解く鼓を打つに。君に報じて知らしめん、莽鹵なること莫れ。甜き者は甜く、苦き者は苦し。

第四十五則 趙州の萬法歸一
垂示に云く、道わんと要すれば便ち道いて、世を擧げて雙び無く、行ずべきにはち行じて、全機讓らず。撃石火の如く、閃電光に似たり。疾焔過風、奔流度刃。向上の鉗鎚を拈起げられて、未だ免れず鋒を亡い舌を結ぶことを。一線の道を放って、試みに擧し看ん。

擧す。、趙州に問う、萬法は一に歸す、一は何處にか歸する。州云く、我州に在りて、一領の布衫を作る。重きこと七斤。

編辟曾挨老古錐、
七斤衫重幾人知。
如今抛擲西湖裏、
下載風付與誰。

編辟曾て挨く老古錐、七斤の衫の重さを幾人か知る。如今、西湖の裏に抛擲す、風を下載して誰にか付與えん。

第四十六則 鏡の雨滴の聲
垂示に云く、一槌にして便ち成り、凡を超え聖を越ゆ。片言もて折むべく、縛を去り粘を解く。氷凌の上を行き、劍刃の上を走くが如し。聲色堆裏に坐し、聲色頭上を行く。縱横の妙用は則ち且て置く、刹那に便ち去る時は如何。試みに擧し看ん。

擧す。鏡に問う、門外是れ什麼の聲ぞ。云く、雨滴の聲。云く、衆生は顛倒して、己を迷い物を逐う。云く、和尚は作麼生。云く、じて己を迷わず。云く、じて己を迷わざるの意旨如何。云く、出身は猶お易かるべきも、體に道うは應に難かるべし。

堂雨滴聲、
作者難酬對。
若謂曾入流、
依前還不會。
會不會、
南山北山轉霈。

堂の雨滴の聲、作者も酬對し難し。若し曾て流れに入ると謂わば、依前として還お會せず。會するも會せざるも、南山北山轉た霈たり。

第四十七則 雲門の六不収
垂示に云く、天何をか言わんや、四時行わる。地何をか言わんや、萬物生ず。四時の行わるる處に向いて、以て體を見るべし。且道、什麼處に向いてか衲を見得する。言語動用、行住坐臥を離却れ、咽喉唇吻を併却いで、還た辨得するや。

擧す。、雲門に問う、如何なるか是れ法身。門云く、六収まらず。

一二三四五六、
碧眼胡數不足。
少林謾道付光、
卷衣又歸天竺。
天竺茫茫無處尋、
夜來却對乳峰宿。

一二三四五六、碧眼の胡も數え足れず。少林謾に道う光に付すと、衣を卷げて又たう天竺に歸ると。天竺は茫茫として尋ぬるに處無し、夜來は却って乳峰に對して宿す。。

第四十八則 王太傅、茶を煎ず
擧す。王太傅、招慶に入りて茶を煎ず。時に朗上座、明招の與に銚を把る。朗、茶銚を却す。太傅見て上座に問う、茶爐下是れ什麼ぞ。朗云く、棒爐。太傅云く、に是れ棒爐、爲什麼にか茶銚を却す。朗云く、仕官千日、失は一朝に在り。太傅、袖を拂って便ち去る。明招云く、朗上座、招慶のを喫却い了るや、却って江外に去きて野を打す。朗云く、和尚は作麼生。招云く、非人、其の便を得たり。雪竇云く、當時但だ茶爐を踏倒さん。

來問若成風、
應機非善巧。
堪悲獨眼龍、
曾未呈牙爪。
牙爪開、生雲雷、
逆水之波經幾囘。

來問は風を成すが若きも、機に應ずること善巧に非ず。悲しむ堪し獨眼龍、曾て未だ牙爪を呈せず。牙爪開かば、雲雷を生ず、逆水の波幾囘をか經たる。

第四十九則 三聖、何を以てか食と爲す
垂示に云く、七穿八穴、鼓をり旗を奪う。百匝千重、前を瞻後を顧みる。虎の頭に踞り、虎の尾を収むるも、未だ是れ作家ならず。牛頭沒れ、馬頭囘るも、亦た未だ奇特と爲さず。且道、過量底人來る時は如何。試みに擧し看ん。

擧す。三聖、雪峰に問う、網を透る金鱗、未審、何を以てか食と爲す。峰云く、汝が網を出で來たるを待って道わん。聖云く、一千五百人の善知識なるに、話頭すら也識らず。峰云く、老は住持に事繁し。

透網金鱗、
休云滯水。
搖乾蕩坤、
振鬣擺尾。
千尺鯨噴洪浪飛、
一聲雷震起。
起、
天上人間知幾幾。

網を透る金鱗、云うを休めよ水に滯ると。乾を搖し坤を蕩し、鬣を振い尾を擺す。千尺の鯨噴いて洪浪飛び、一聲雷震いて起る。起る、天上人間知んぬ幾幾ぞ。

第五十則 雲門の塵塵三昧
垂示に云く、階級を度越し、方便を超絶す。機機相應じ、句句相投ず。儻し大解門に入り、大解の用を得るに非ずんば、何を以てか佛を權衡り、宗乘に龜鑑たらん。且道、當機直截、逆順縱横して、如何か出身の句を道い得ん。試みにう擧し看ん。

擧す。、雲門に問う、如何なるか是れ塵塵三昧。門云く、鉢の裏の、桶の裏の水。

鉢裏、桶裏水。
多口阿師難下觜。
北斗南星位不殊、
白浪滔天平地起。
擬不擬、止不止、
箇箇無長者子。

鉢の裏の、桶の裏の水。多口の阿師も觜を下し難し。北斗南星位殊ならず、白浪滔天平地に起る。擬するも擬せず、止むるも止まらず、箇箇無の長者の子。

木偏に栗(りつ)25