第二 受戒

禪苑規云、三世佛、皆曰出家成道。西天二十八、唐土六、傳佛心印、盡是沙門。蓋以嚴淨毘尼、方能洪範三界。然則參禪問道、戒律爲先。非離過防非、何以成佛作(禪苑規に云く、三世佛、皆な出家成道と曰ふ。西天二十八、唐土六、佛心印を傳ふる、盡く是れ沙門なり。蓋し以て毘尼を嚴淨して方に能く三界に洪範たり。然あれば則ち參禪問道は戒律爲先なり。に過を離れ非を防ぐに非ずは、何を以てか成佛作せん)。
受戒之法、應備三衣鉢具并新淨衣物。如無新衣、浣洗令淨。入壇受戒、不得借賃衣鉢。一心專注、愼勿異。像佛形儀、具佛戒律、得佛受用、此非小事。豈可輕心。若借賃衣鉢、雖登壇受戒、竝不得戒。若不曾受、一生爲無戒之人。濫廁空門、消信施。初心入道、法律未諳、師匠不言、陷人於此。今茲苦口、敢望銘心(受戒の法は、應に三衣鉢具并びに新淨の衣物を備ふべし。新衣無きが如きは、浣洗して淨からしむべし。入壇受戒には、衣鉢を借賃すること得ざれ。一心專注して、愼んで異あること勿れ。佛の形儀に像り、佛の戒律を具す、佛受用を得る、此れ小事に非ず。豈に輕心なるべけんや。若し衣鉢を借賃せば、登壇受戒すと雖も、竝びに得戒せず。若し曾受せずは、一生無戒の人爲らん。濫りに空門に廁り、しく信施を消せん。初心の入道は、法律未だ諳んぜず、師匠言はずは、人を此に陷れん。今茲に苦口す、敢て望すらくは心に銘ずべし)。
受聲聞戒、應受菩薩戒。此入法之漸也(に聲聞戒を受くれば、應に菩薩戒を受くべし。此れ入法の漸なり)。
西天東地、佛相傳しきたれるところ、かならず入法の最初に受戒あり。戒をうけざればいまだ佛の弟子にあらず、師の兒孫にあらざるなり。離過防非を參禪問道とせるがゆゑなり。戒律爲先の言、すでにまさしく正法眼藏なり。成佛作、かならず正法眼藏を傳持するによりて、正法眼藏を正傳する師、かならず佛戒を受持するなり、佛戒を受持せざる佛あるべからざるなり。あるいは如來にしたがひたてまつりてこれを受持し、あるいは佛弟子にしたがひてこれを受持す、みなこれ命脈稟受するところなり。
いま佛佛正傳するところの佛戒、ただ嵩嶽曩まさしく傳來し、震旦五傳して曹谿高にいたれり。原、南嶽等の正傳、いまにつたはれりといへども、杜撰の長老等かつてしらざるもあり、もともあはれむべし。
いはゆる應受菩薩戒、此入法之漸也、これすなはち參學のしるべきところなり。その應受菩薩戒の儀、ひさしく佛の堂奥に參學するもの、かならず正傳す。疎怠のともがらのうるところにあらず。

その儀は、かならず師を燒香禮拜し、應受菩薩戒を求するなり。すでに聽許せられて、沐浴淨にして新淨の衣服を著し、あるいは衣服を浣洗して、花を散じ、香をたき、禮拜恭敬してその身に著す。あまねく形像を禮拜し、三寶を禮拜し、尊宿を禮拜し、障を除去し、身心淨なることをうべし。その儀ひさしく佛の堂奥に正傳せり。
そののち、道場にして和尚、阿闍梨、まさに受者ををしへて禮拜し、長跪せしめて合掌し、この語をなさしむ。
歸依佛、歸依法、歸依
歸依佛陀兩足中尊、歸依達磨離欲中尊、歸依伽衆中尊。
歸依佛竟、歸依法竟、歸依竟。
如來至眞無上正等覺是我大師。我今歸依、從今已後、更不歸依邪魔外道。慈愍故。[三。第三疊慈愍故三遍](如來至眞無上正等覺は是れ我が大師なり。我れ今歸依したてまつる、今より已後、更に邪魔外道に歸依せじ。慈愍したまふが故に。[三。第三には慈愍故三遍を疊す])

善男子、邪歸正、戒已周圓。應受三聚淨戒(善男子、に邪をし正に歸して、戒已に周圓せり。應に三聚淨戒を受くべし)。
第一、攝律儀戒。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第二、攝善法戒。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第三、饒衆生戒。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
上來三聚淨戒、一一不得犯。汝從今身至佛身、能持否(上來三聚の淨戒、一一犯すること得ざれ。汝、今身より佛身に至るまで、能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
是事如是持(是の事、是の如く持すべし)。
受者禮三拜、長跪合掌。

善男子、汝受三聚淨戒、應受十戒。是乃佛菩薩淨大戒也(善男子、汝、に三聚淨戒を受けたり、應に十戒を受くべし。是れ乃ち佛菩薩淨大戒也)。
第一、不殺生。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第二、不偸盗。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第三、不貪婬。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第四、不妄語。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第五、不酒。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第六、不在家出家菩薩罪過。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第七、不自讃毀他。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第八、不慳法財。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第九、不瞋恚。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
第十、不癡謗三寶。汝從今身至佛身、此戒能持否(汝、今身より佛身に至るまで、此の戒能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
上來十戒、一一不得犯。汝從今身至佛身、能持否(上來の十戒、一一犯すること得ざれ。汝、今身より佛身に至るまで、能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
是事如是持(是の事、是の如く持すべし)。
受者禮三拜。

上來三歸、三聚淨戒、十重禁戒、是佛之所受持。汝從今身至佛身、此十六支戒、能持否(上來の三歸、三聚淨戒、十重禁戒は、是れ佛の受持したまふ所なり。汝、今身より佛身に至るまで、此の十六支戒、能く持つや否や)。
答云、能持。[三問三答]
是事如是持(是の事、是の如く持すべし)。
受者禮三拜。
次作處世界梵訖云(次に處世界梵を作し訖つて云く)、
歸依佛、歸依法、歸依
次受者出道場(次に受者、道場を出づ)。

この受戒の儀、かならず佛正傳せり。丹霞天然、藥山高沙彌等、おなじく受持しきたれり。比丘戒をうけざる師、かくのごとくあれども、この佛正傳菩薩戒うけざる師、いまだあらず。必ず受持するなり。

正法眼藏第二受戒